いいものを長く使う

去年が還暦だったので、30年以上振りに縁なしメガネを新調した。
実は未熟児網膜症で3歳からメガネをかけていて、これまでにあつらえたメガネ総数は20本は越えると思う。1つ前の30年ご愛用の品は、昭和天皇のメガネをおつくりしていたメーカーのもので、はじめてかけた縁なしのK18フレーム。でも、当時は、金1gは2,300円だった。約1/10じゃないか! それで、その後は、はじめての遠近両用もそのフレームに薄型レンズを使って問題なく過ごしていたのだが、長らくお世話になっていたメガネ屋さんがリタイヤしてしまい、そこそこの技術がないければいじれない繊細なフレームなために難民化してしまって、仕方なく、どうしてもなネジの調整が必要な折に、地元のデパートのメガネ屋にお世話になったのだが、無料でネジだけ閉めて、はこころ苦しいし、そのフレームのメーカーが今どうなっているかなども教えてもらい、ついでに鼈甲のフレームを見せてもらっていた。へぇ、今は、あのじじい臭い鼈甲のイメージではなく、軽くてデザイン性もあり、色のバリエーションまでつけてあるのかと感心した。しかし、さほど執着はないし、まぁ、次もネジ閉めだけてかまいませんよ、と仰るし、このまま、定期的にしばらくお世話になるしかないな、と考えていた。
それが、次のネジ閉めの時、来月、鼈甲フレームの展示会があります、とおっしゃる。へっ、鼈甲って…前回かけてみたあのメーカーのフレームを思い浮かべて、さて、48万円だったかな?と記憶を呼び起こした。そうかぁ、先日、ちょうど還暦になったばかりだし、厄落としに長いものか高価なものをあつらえなさいなんて聞いた気がする。そういえば、何も一括で支払うことはないのよね、と脳裏に浮かんだ。デパートの展示会なんだから金利手数料ゼロ分割なんかもあるのかな、と。そういう流れで、さして興味をそそられていたわけでもなかった鼈甲の縁なしメガネが一気に浮上した。
その後、つつがなく、一年が過ぎてめでたく分割払いも終了した。鼈甲といってもリム(耳にかける部分)だけだから、ひとめにはわからない。途中、親戚宅に滞在中、ネジが緩くなって別のメガネ屋さんで閉めてもらった際に、店長さんらしきひとから「すごいフレームをお使いなんですね」といわれたくらいで、外してテーブルに置いたとしても、素人目にはわからない。セルロイドと見分けはつかないし、そもそも、鼈甲をかけているなんて夢にも思わない、その必要性も感じてないだろう。
趣味のバイクや葉巻やワインなど、全面的に生活必需品ではないものの、高価なのに、いつでも一定の層がいて成り立つ商売がある。たまに、いいものをもっとリーズナブルに、といい出す後発メーカーが現れることはあるが、やはり、ダントツは老舗のメーカーで、ソレを使うからステータスとみなされる技術と素材から選べる優位性を実現してはばからない。
わたしは、残りの生涯で、フレームを新調することはもうないだろう。18金と鼈甲、メガネが必須なひとが最後に行き着くといわれる2TOPはコンプリートしたから。これで、ネジ閉めも気楽にお願いできるというもの、めでたしめでたし。それにしても…あの店長さんは、何ひとつ営業していない。親切にきちんと対応するのが商売の基本そのものの証左とはいえ。ま、タイミングや相性はあるが、それも実力のうち。途中でヤンやいっていたら、たぶん、難民に戻ってしまっていただろう。
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